人材業界出身者がキャリア選択で考えるべき選択肢とポイント

人材業界でクライアントの採用、求職者の転職などを日々サポートしていても、いざ自分が転職となるとなかなかどのように転職活動をすべきか迷う方も多いのではないでしょうか。

本記事では人材派遣、人材紹介、求人広告など人材業界経験者が転職においてどんなことをアピールできるのか、人材業界からの転職の場合にどのような選択肢を持つことができるかなどを紹介していきます。転職を検討されている方、転職活動中の方も是非ご参考ください。

目次

人材業界とは

人材業界というと非常に広義にはなりますが、こちらの記事では人材業界について人材紹介、人材派遣、求人広告、教育研修会社、人事コンサルティングなどを人材業界と定義します。各領域で特性は異なりますが、顧客となる法人企業の採用や人材育成など人材領域における課題解決を主たるサービスに置いていることにあります。

特にこの数年、人材難が謳われており、厚労省の発表する有効求人倍率(参照元)は2000年以降では景況が苦しかった2009年の0.45倍から年々倍率は上り調子にあり、2018年には1.6倍を記録しています。昨今の新型コロナ問題で2022年の有効求人倍率は1.1倍ほどではありましたが、そのような最中でもWebエンジニアなどを中心とするIT業界では有効求人倍率は約7倍にも上ると言われています。

このような市場環境の中、人材採用における需要の高まり、あるいは人材難解決のため一人ひとりの生産性向上に向けた人材教育への投資に積極的になる企業が増える中、人材業界に求められる期待も高まりを見せてきたと言えるでしょう。

参考情報:一般職業紹介状況(職業安定業務統計)

人材業界出身者がアピールできること

このような人材難の時代にあり、またそのような環境下で採用や転職の課題解決を行う人材業界ならではのスキルや知見などアピールできることを以下にてご紹介します。あらためて自身が人材業界で培ってきた経験・スキルの棚卸にご参考ください。

採用・転職に関する知見

人材業界での営業活動の中で、企業の採用の悩み、求職者の転職相談などに触れる中、どのような業界でどのような課題を抱えているかというマーケット理解、あるいは採用・転職が上手くいった好事例などの知見が身についているかと思います。

このような転職市場のトレンド、求職者が転職活動で何を考えているのかといった一次情報に触れられる経験は、人事、あるいは採用領域に軸足を置いた人事コンサルタントなどに転職する際には特に発揮できるスキルといえるでしょう。

変化への適応力

業界特化型戦略をとっている人材会社を除き、人材業界全体の特徴としては、不動産や飲食、ITなど幅広い業界の企業、あるいは転職を考える求職者の方に接することになるかと思います。特性の異なる幅広い業界での採用や組織の話に触れるのは、当然ながら簡単なことではありません。例えば何か商品を小売店に卸すようなルート営業のようにある程度対応業界が固定されている営業職に比べて、人材業界では変化適応が求められる機会は多いでしょう。

このような変化の多い人材業界での経験は、IT・Web業界をはじめ変化スピードの早い業界では重宝されることが多いです。転職活動では人材業界で身に着くこのようなスキルも評価されやすいので、そのような点も踏まえて転職活動に臨むと良いでしょう。

コミュニケーション力

企業から採用したい人物像をヒアリングする、あるいは求職者より自分が転職したいと思う業界や社風の会社をヒアリングするときに、顧客、求職者の多くはなかなかはっきりと言語化できる人は少ないです。そのようなニュアンスなど抽象的な部分を汲み取ってコミュニケーションをとりながら、言語化のサポートをしていくのは人材業界で身につくスキルといえるでしょう。

何かが不足するから購入するといった営業ではこのようなスキルは活かせるシーンは少ないかもしれませんが、顧客が明確に課題を捉え切れていないようなシーンなどにおいては、人材業界でのこのようなコミュニケーション力が発揮されることも多いです。

新規開拓力

人材獲得難の時代で、有料職業紹介免許の申請は多い時には月に100社以上もの申請があるといわれています。このように人材業界は人材派遣、人材紹介、求人広告など多くの競合が乱立する業界のため、新規開拓を中心とした営業力が他の業界と比べると身に付きやすいでしょう。

特にこれからマーケットシェアを獲りにいくベンチャー、スタートアップ企業、あるいは大手企業の新規事業部門などでは、このような人材業界の営業経験は評価して貰えることが多いです。

経営者との商談経験

「ヒト・モノ・カネ」と昔から言うように、いつの時代も経営者は人材に課題を抱えています。特に人材難といわれる今の時代において人材獲得を最重要な経営課題と捉えている経営者も少なくはない中、経営者との商談機会も以前より増えたのではないかと思います。

しかしながら、このような経営者との商談経験の豊富な営業職はそこまで多くありません。経営者と対峙するコンサルティング企業、あるいはコンサルティング要素の高い営業の仕事などでは特にこのような経験は評価されやすいので、人材業界出身者は積極的にアピールしていくと良いでしょう。

人材業界から人材業界への転職

人材業界から人材業界へ転職する人は比較的多いです。例えば人材紹介の領域では、メーカーや不動産、IT・Web業界など様々な業界に向けて人材紹介サービスを提供する総合型転職エージェントから、ハイキャリア領域に強い転職エージェントや製造業に特化した転職エージェントなど、自身が挑戦したい、深めていきたい領域に強みを有する特化型転職エージェントに身を移すケースなどがその一つと言えるでしょう。

転職メディアなど求人メディアを取り扱う求人広告の領域では、求人メディア事業を展開する媒体会社と代理店という構図があります。代理店で積み重ねた経験を活かし、媒体会社でよりユーザー目線を大切にした求人メディアの企画へのキャリアアップを目指す転職をするケースもあります。あるいは自社の求人メディアだけではなく、他社も含めた複数の求人メディアにて顧客にとってベストな提案をしたいという思いで、代理店に身を移すという逆のパターンもあります。

このような人材業界の同じ領域内での転職の他にも、人材派遣から人材紹介への転職など、人材業界の中で領域を変える転職をする人も少なくありません。比較的このような人材業界の中で領域を変える転職が珍しくないのも、人材業界の特性の一つと言えるでしょう。

人材業界の中で領域を変える人は、まず人材業界に飛び込んでみた中で、自身の適性や志向することが醸成され、より自身に合った領域へ身を移す決断をされるケースが多いです。このような人材業界の中で領域を変える転職を目指す場合、自身がこれまでのどのような経験の中で何を感じ、人材業界の中で新たな挑戦を志したかなどを話せるように準備の上、転職活動に臨むと良いでしょう。

人材業界から異業界営業職への転職

人材派遣、人材紹介、求人広告を問わず、人材業界から異なる業種の営業職への転職というのが最も多く、商品力のあるメーカーよりも比較的、人材業界と同様に、IT・Web業界、あるいは保険、M&A仲介をはじめとした金融業界のような無形商材・サービスを扱う業界への転職が多い傾向にあります。

大手・中堅企業への転職も多いですが、最近ではベンチャー、スタートアップ企業でリクルートグループをはじめとした人材業界の営業力の高さを評価される企業も多くなり、そのような比較的若いフェーズの企業へ転職をされる方も増えてきています。

また業界をスライドさせる形で「HR×●●」のようなサービスを取り扱う企業も知識や経験を活かせる即戦力人材として転職先候補によく挙がります。こちらは例えば労務管理システムなどを展開するHR SaaS、社内の人材情報管理を行うタレントマネジメントシステム、応募者情報管理などを行う採用管理システム(ATS/Applicant tracking system)などがその代表格と言えるでしょう。

営業職に軸足をおく転職活動の際には、先にも挙げた通り、競合他社が多い中でどのような工夫をして新規開拓に取り組んできたか、あるいは営業力が人に依存しやすい人材業界において、人材育成や営業をサポートする仕組みなどで工夫されてきた経験などを中心にアピールしていくのが良いでしょう。

また上記の様に新規開拓の様な部分も重要ですが、大事な社員の採用、人生を決める転職を任せて貰う中、企業や求職者との信頼関係は必須です。そのような信頼構築のためにどのような工夫をしてきたかなどについてもアピールされるのもよいでしょう。

※SaaS(サーズ)は「Software as a Service」の略で、クラウド上のアプリケーションやサービスを、インターネットを通じて利用する形で提供されるビジネスモデルになります。スマホなど月額課金型で利用するサブスクリプション型のサービスの多くはSaaSに該当します。

人材業界から人事への転職

人材業界から採用などに関する引き出しを活かし、人事(採用担当)に転職する方も多いです。人事への転職の場合には自力での転職活動の末に入社というパターン以外にも、営業として取引関係にあった気心知れる企業へ転職を決められる方も少なくはありません。営業と人事で立場が違えども、同じ「採用」という領域で仕事をしているので、共通している部分も多くありますが、近いようで2つの仕事は異なる部分も多いので面接でのアピールでは注意が必要です。

特に人事の仕事は人材会社との折衝等以上に、現場との社内調整の上、採用や教育などに関してどのように進めていくのか方針を決め、具体的な実行案に落とし込んでいきます。そのような中、社内を巻き込みながら仕事ができるのかどうかといった観点は、人事への転職の際に選考で論点となりやすいポイントの一つです。転職市場をはじめとする採用に関する知見のアピールは勿論ですが、当然ながら採用だけが人事の仕事ではありません。そのような食い違いから人事の仕事がイメージできていない人であると思われてしまい、「営業としては良いのだけれど」と採用見送りとなるケースも少なくありませんので気をつけましょう。

また、採用に関する知見をアピールするときにも注意が必要です。「これまで300社の採用をお手伝いしてきた採用の知見が強みです」というアピールが悪いわけではないのですが、その前に自分が応募する企業の業界特性などを踏まえた上でのアピールをしていくことが大切になります。これまでどのような業界や従業員規模の採用支援を行ってきたのか、人材採用ではどの領域(正社員、アルバイト、派遣社員など)に強いのかなどを整理し、応募企業の業界や抱えている課題と照らし合わせながら、自分のこれまでの経験・知見などをアピールしていきましょう。

そして人材業界経験者で抜けがちなのが、労働基準法や就業規則等の人事に関連する法律知識です。コンプライアンスが年々厳しくなる傾向にある中、人事ではこのような法律知識を確実に理解しておく必要になります。人事職への転職を考えているなら、全てとは言いませんが、今のうちから特に採用や転職周辺に関する法律などをあらためて勉強しながら仕事に取り組むことが大切です。

人材業界からコンサルタントへの転職

経営者、役員クラスの方との商談機会が多いのも人材業界の特徴の一つといえるでしょう。そのような経営者との商談を通じて培った経営視座を土台に、コンサルティング業界へ転職する人も多いです。人事だけにとどまらず財務やマーケティングなど経営全般を支援する経営コンサルティング会社へ転職される方もいますが、多いのはやはり人事領域に特化した人事・組織コンサルティング会社です。

このようなコンサルティング業界に転職を目指す場合、これまでの人材業界でどれだけ経営者との商談の場数を踏んできたか、またその商談の中でどのような会話をし、経営課題解決の提案をしてきたのかといったという商談の中身のアピールが必要となります。

併せてアピールできることとしては人材業界ならではの知見の広さです。メーカー、小売、サービス、IT・Web、不動産など幅広い業界でのビジネスの仕組み、組織課題などに触れる経験は、顧客のビジネス理解やどのように経営改善をしていくべきかなどのご提案に生きる部分が多々あるかと思います

人材業界からコンサルティング業界への転職を目指す場合には、言うまでもなく、日々やり取りをしています顧客に深く入りこんでいくことが大切です。経営者との商談機会をもつ、さらにその商談機会の中で顧客の成長につながるご提案をしていきましょう。

起業家への転身

起業家輩出企業で有名なリクルートグループを中心に、独立起業という選択をする方も人材業界では多いです。しかしこの独立起業も大きく3つのパターンに分かれる傾向があります。

人材業界での起業

現在、上場している企業で挙げますと、人事・組織コンサルティング事業などを展開する株式会社リンクアンドモチベーション(リクルート社出身の小笹氏が創業)、転職サイト「Green」などを展開する株式会社アトラエ(パーソルキャリア社出身の新居氏が創業)、2021年に東証マザーズにIPOを果たした「Offer Box」など新卒領域のサービスを展開する株式会社i-plug(パーソルキャリア社出身の中野氏が創業)などが人材業界出身で躍進をとげられら起業家の代表格といえるでしょう。

また、2021年に同じく東証マザーズに上場を果たしたプロシェアリング事業を展開する株式会社サーキュレーション(パーソルキャリア社出身の久保田氏が創業)のように、副業・兼業のニーズを捉えた人材領域でIPOを果たされた事例もあります。

また、IPOを見据えるような起業でなくとも、人材紹介をはじめ人材業界での起業は、例えば製造業のように初期投資の大きなビジネスでの起業と比べると、比較的起業はしやすいです。そのような参入障壁の低さにより、人材紹介や人材派遣などを中心に人材業界での起業を志す方も少なくはありません。

ただし、人材業界での起業は参入障壁は低い分、競合となる企業が乱立するマーケットであるのも特徴です。人材業界で起業をする際には、起業のしやすさだけ決めるのではなく、参入後にどのような戦略で競合他社との差別化を図っていくかまで見据えて決断するのが良いでしょう。

このように人材業界は裾野が広く、まだまだ大手人材会社も手をいれられていない課題の多い領域というのはたくさんあります。そのような中、人材業界の中にいるからこそ見える課題解決を目指し、起業される方は上記以外にも多数います。

人材業界以外での起業

人材業界出身者が人材業界以外で起業し、躍進を遂げられたケースを挙げるとすれば、インターネット黎明期を牽引した株式会社サイバーエージェント(パーソルキャリア社出身の藤田氏が創業)を中心にデジタルマーケティングの大手である株式会社セプテーニ・ホールディングス(リクルート社出身の七村氏が創業)、リジョブやスモッカなどなど複数のメディアを運営する株式会社じげん(リクルート出身の平尾氏が創業)などが挙げられるでしょう。

ご紹介したような上場を目指すビジネスでばかりではなく、メディア、不動産、金融、マーケティングなど人材業界以外の領域で事業を興される起業家の方も多数います。様々な業界やビジネスを見ることのできる人材業界だからこそ、その中で感じたビジネスチャンス、課題などに向き合う形で起業される方が多いのが、人材業界出身の起業家の特徴の一つともいえるでしょう。

フリーランス

様々な業界や従業員規模の企業の採用課題に触れてきた経験を活かしてフリーランスとして起業し、人事コンサルティング業などに従事される方も多いです。この場合、人事への転職と同様に、人材業界で営業をしていた取引先のサポートなどをしながら起業される方が多く、その取引先の知人経営者をご紹介いただく程度であまり大々的に広げずに商売をされるケースが多いです。

このようなフリーランスとしての起業を選択をされる背景には、自身の好きな顧客に対し、売上数字などに追われず、密にサポートしていきたい方などがこのような働き方を選択される傾向にあります。

人材業界出身者の転職活動

人材業界は比較的多忙な働き方を強いられることが多く、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという方も多いでしょう。このような多忙な人材業界の中では、現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのような方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ(現東証グロース)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業が人材業界の経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

このような転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

また、人材業界出身者が転職エージェントを活用して転職するケースは往々にしてあり、寧ろ勝手が分かっているが故にうまく活用している方などは転職活動を優位に進めています。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

人材業界からのキャリアには上記以外にもまだまだ選択肢はたくさんありますが、業界、職種によって転職する場合に求められるスキルや知識は異なります。また、職種によっては未経験から自分だけで目指すことは難しい場合もあります。

そのため、自分が目指す業界や職種、企業に精通したプロのキャリアアドバイザーをパートナーに相談しながら進めていくことをお勧めします。Webサイトなどだけでは拾えない、生の情報が得られるだけでなく、自身も人材業界に身を置く人間として業界のことを理解しているからこそ、客観的にみたキャリアアドバイスなどを受けることができるでしょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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